本稿は,卓上ロールプレイングゲーム(TRPG)研究における革新的な方法論的アプローチとしてアクターネットワーク理論(ANT)を紹介するものである.物語的要素やルーディック要素を優先する分析枠組みを超え,物質的アクターがいかにしてプレイ体験を共同形成するのかを検討する.2010年から2014年にかけてドイツ国内の複数のゲームプレイ拠点で実施したマルチサイト民族誌的フィールドワークを通じて,TRPGにおける物質的エージェンシーを分析するための体系的アプローチを構築した.本研究では,物質的アクターに語りの声を与え,しばしば見過ごされがちなロールプレイング・ネットワークへの貢献を明らかにする「語るモノ(speaking materials)」という新たな方法論的技法を提示する.このアプローチは,一見雑然としたゲーム用具の配置が,実際にはロールプレイを機能させる高度に協働的なネットワークを構成していることを明らかにするものである.さらに,物質的アクターが人間の参加者,ゲームメカニクス,物語要素の間の関係を媒介する様相を示すことにより,本研究はロールプレイングゲームの物質的次元を検討するための汎用的な分析ツールを研究者に提供し,異なる文化的文脈においても適用可能であることを示す.本研究は特定のドイツのゲーミング・コミュニティに位置づけられ,かつTRPGにおけるデジタルツールが広く普及する以前に実施されたものであるが,本方法論的アプローチは,多様な文脈における物質とプレイヤーの関係を理解する上で広範な応用可能性を有している.