「プレイヤーの安全性」という考え方,つまりロールプレイングゲームをプレイする人々の心理的な幸福に対するゲームをデザイン・主催する側の懸念は,過去数年の間に,LARPだけでなくテーブル・トークRPGにおいても,この懸念に対処することを目的としたゲーム前,ゲーム中,ゲーム後の手順の基準として浮上してきた.しかし,プレイヤーの安全性を考慮すると,例えば,プレイヤーの安全性のための手法が何らかの形で経験を希薄にしたり,創造性を抑制したりするのではないかと心配する人たちの間で懐疑的な反応が生まれることがある.このような相反する懸念が生み出す会話のダイナミクスを調べることで,RPGへの参加の本質についての洞察を得ることができる.しかし,これらのダイナミクスを完全に理解するには,プレイヤーの安全性に関する言説の歴史的背景を調査することが有益である.そのために,本稿は「フォージ・ディアスポラ」として知られるオンライン圏での安全関連の言説を中心とした会話を分析する.
「The Forge (フォージ,加熱炉)」は,テーブル・トークRPGのデザイン,出版,プレイのためのオンラインディスカッションサイトで,21世紀の最初の10年間に活発に活動し,その間にクリエイターが所有する「インディーRPG」とゲームデザインの革新を擁護する役割を果たした.さらに,それがきっかけとなり,多くのブログやフォーラムでさらなる議論が行われた.「Forge Diaspora (フォージ・ディアスポラ,四散したフォージ関係者間)」で議論されたプレイヤーの安全性に関する考察の中には,Ron Edwardsが「Line and Veil (ラインとベール)」と呼んだ手法や,Meguey Bakerの「Nobody Gets Hurt (誰も傷つかない)」と「I Will Not Abandon You (あなたを見捨てない)」という補完原則があった.本稿では,修辞学的分析のテクニックを用いて,これらと関連するアイデアについての物語と論証の枠組みを再構築し,プレイヤーの安全性についての同時代の会話に歴史的な文脈を提供することを目的としている.