Inaugural Issue | 創刊号

Editorial | 創刊号発刊の趣旨

JARPS Editors | RPG学研究編集委員会

How to Cite:

JARPS Editors. 2019. "Editorial." Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies, 0: 1e-2e.

引用方法:

RPG学研究編集委員会. 2019. 「創刊号発刊の趣旨」『RPG学研究』0号: 1j-2j.

DOI: 10.14989/jarps_0_01j
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1. グローバルな文脈の中でのRPG

[1.1] ロールプレイングゲーム(RPG)のさまざまな形式と取り決めの研究は,この10年ほどの間に出版された多数の論文と書籍により学術的な成熟をみせてきました.この度の『RPG学研究』(Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies:JARPS)の創刊号の発行により,私たちはRPG研究の発展の一翼を担うことを,そしてこのエキサイティングな分野の多くの新しい研究や実践報告と出会えることを楽しみにしています. ゲームスタディーズ (game studies)とルドロジー (ludology)(遊び/ゲームを研究する学問分野)の中では,デジタル形式とオンライン形式のゲームが主に注目されているため,それ以外の形式のゲームの研究は脇に追いやられがちのように思われます.さらに,多くのゲームに関する研究は主にヨーロッパまたはアメリカの文脈で扱われています. JARPSは,(主に)アナログ(非デジタル)形式のロールプレイングに関する研究を掲載することにより,このような2つの不均衡を埋めることを試みます.日本でのテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)とライブアクションロールプレイ(LARP)をグローバルな文脈から扱います.

[1.2] RPGは,国を越えて,文化を越えて,異なる世界の文化やグローバルな歴史を私たちに提示します.1974年にいわゆるファンタジーRPGの元祖とも言われる『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)が,19世紀にプロイセンと古代インドでその先駆けが生まれたウォー・シミュレーションゲームを基に,最初のTRPGとして生まれました.それ以降,数多くの形式,ジャンル,およびプレイスタイルのTRPGが作られていきました. いわゆる「剣と魔法(ソード&ソーサリー)」のジャンルで非常に多くの作品が作られていますが,TRPGのデザイナーたちは,それ以外にも多くの設定やコンセプトを探求し,制作しました.これらの設定やコンセプトは,実際にプレイされることでさらに改変されていきます.

[1.3] D&Dやその日本版ともいえる『ソードワールドRPG』などの非デジタルのRPGは,テーブルを囲むプレイヤーたちの想像力を刺激するだけでなく,さまざまなメディアやジャンルと結びつきました.TRPGは日本で,「リプレイ」というまったく新しい文学形態を生み出し,それは後に,小説『ロードス島戦記』や,漫画,アニメーションなど,ポピュラーカルチャーにおけるメディアミックスを引き起こしていきました.さらにその間,TRPGは,ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』や,ジョージ・RR・マーティンの『炎と氷の歌』(「ゲーム・オブ・スローンズ」)のようなフランチャイズ型作品の一部にもなりました.

[1.4] TRPGは「テーブルトーク」という名の通り,主にテーブルを囲んでプレイされ,ストーリーはプレイヤー同士の語り合いによって進められます.プレイヤーは,ゲームの世界を通じて,オリジナルの個性と目的を持つキャラクターを操り,名声と宝物の獲得を目指したり,または人間であることの意味を探ったりしながら物語を進めていきます.TRPGの中から生み出される物語の数々は,プレイヤーたちにとって忘れがたい体験となります.

[1.5] プレイヤーがキャラクターとして実際に衣装をまとい武器を携え,数時間,長い時は数日をかけて物語を楽しむライブアクション・ロールプレイ(LARP)は,最近世界中で注目を集めています. LARPは娯楽として発展しているだけでなく,同時に効果的な教育ツールとしても認識されています. 特に北欧では,ロールプレイングの可能性に関する数多くの論説に出会うことができますし,参加者は自分がいる以外の世界や人々について学び,驚くほどに変化していく経験をすることも可能にしています.

[1.6] RPGのすべての形式に共通していることとして,非常に流動的で一時的であるという性質があり,それがRPG研究に多くの障害をもたらしています.この障害は,たとえば,次のような研究上の問いをもたらします.すなわち,「数時間のプレイをどのように分析すべきか?」「特定のロールプレイングゲームを学者として理解するには,何回セッションを観察する必要があるだろうか?」「何回セッションにプレイヤーとして参加すべきだろうか?」「LARPプレイヤー(あるいは,キャラクター)が雨の中で震えている時に離れた場所に安全に立っていて,彼らの経験を完全に理解できるのだろうか?」「プレイヤー集団は映画のメインキャストに似ているという比喩を真剣に考えるとすれば,数百とは言わずとも数千人の参加者のいるLARP,全ての人々がストーリーの別のパートを経験するLARPに対し,いかにアプローチしうるのか?」といった問いです.

2. 本誌「RPG学研究」について

[2.1] 『RPG学研究』(JARPS)は,このような問いを扱った論文,中でも特に,これまで研究があまりなされてこなかった日本のロールプレイング実践を調査する際にこれらの問いを扱ってきたような論文を奨励しています.日本のプレイヤーは,実践のさまざまな取り決めをどのように割り当て,変更し,変換しているでしょうか? これは,日本におけるTRPGとLARPの「日本人らしさ」を追究するものではありません.ロールプレイングゲームを通じて実現していることは常に特定のものです.東京のRPGプレイヤーたちは,物語を指向するようなメインストリームのTRPGを,ミュンヘンにいる同類たちと同様に競争的なやり方でプレイしています.一方その間,同じ都市内の少し先にいったところで,別のグループが,デザイナーが想像していたようなやり方でプレイをしていることもあるのです.したがって,JARPSは,特に,プレイヤーがグローバルなブロックを使用してローカルなストーリーを作成する方法に対して関心を持っています.デザイナーはどのような役割を果たすでしょうか?ゲームに対する彼らのビジョンは何でしょうか?プレイヤーはテーブル上でこれをどのように翻訳・解釈するでしょうか?それぞれの社会またはメディア環境でRPGを使用している場所はどこですか? JARPSは,生産と使用,理論と実践,およびその中間とその先のすべてについて研究します.

[2.2] TRPGとLARPは,趣味と娯楽以外の用途にも使われます. したがって,JARPSは,これらのゲームの教育的,政治的,または治療的応用に関する寄稿も求めています.プレイヤーはRPGを使用して何を学ぶのでしょうか? チームワークを促進するために,どのようにLARPを使用できるのでしょうか? 政治家がゾンビと戦った場合,環境問題をよりよく理解できるのでしょうか? JARPSにはそのような問いのための紙面があり,RPGが楽しみ以外の何かに使用されたプロジェクトについての詳細な事例報告や,最良の実践紹介に関する記事を求めています.ただし,楽しむことの重要性は否定しません.

[2.3] 我々は,知識が自由に共有されるべきだと考えています. そのため,JARPSは,非営利「日本RPG学研究会」(Japanese Association for Role-Playing Game Studies)によってオンライン専用のゴールドオープンアクセス出版物として提供され,クリエイティブ・コモンズ(表示4.0-国際)の下でライセンスされています.購読料は請求しませんが,もちろん,読者がジャーナルのウェブサイトで提供されている資料を使用または引用する際には,ジャーナルの著者に引用することをご連絡ください.JARPSは,最高の科学的基準に準拠した記事の公開を目指しており,研究・理論論文,実践報告,教育用資料等の原稿に対して査読を行います.さらに,RPGに関するさまざまな言説の間で異文化間交流を行うための欄を作成する予定です.JARPSは日本語と英語の投稿を受け付けるバイリンガルジャーナルです.1 これに関連して,まだ他言語で利用できない書籍のレビュー,理論の要約,またはローカルな実践に関する研究も歓迎しています.

3. 本号について

[3.1] 本号(創刊号)は,日本での言説において,略語としてのTRPG(テーブルトークRPGとして)を発案者と言われているゲームデザイナーの近藤功司(冒険企画局)による特別寄稿の巻頭言から始まります.近藤氏はそもそもゲーム(ロールプレイング)を定義する方法,プレイヤー,ゲーム,プロデューサーがどのように相互作用するか,そしてこの相互作用と流用の方法を通して新しいものがどのように生まれるかについて論じています.後続の論文では,JARPSの編集チームが,このジャーナルにどのような投稿を掲載するかを示したいと考えています.

[3.2] ビョーン=オーレ カム(京都大学)は,北欧のLARPの国際会議Knutepunkt(クヌーテプンクト)から発展した言説,理論,および実践についてと,日本語での「ノルディックラープ」について紹介します.この理論的な論文は,より多くの交流を期待して,RPGに関する日本での言説にアイデアを提供することを目指しています.その次の寄稿は,青少年支援としてLARPや他の形式のアナログゲームを使用した実践例についてのデニス パシェン(ミュンスター大学)の実践報告です.彼女は,体験重視の教育学の牽引者的存在であるドイツのNPO Waldritterによるさまざまなプロジェクトを詳しく説明しています.彼女の記事は英語と日本語で利用することができます.2 最後に,加藤浩平(東京学芸大学)は,自閉スペクトラム症(ASD)と診断された子どもや若者のコミュニケーション支援におけるTRPGの使用に関する研究を紹介しています.これまで,彼の研究報告は日本語以外ではほぼ入手ができなかったため,RPGの応用研究に関する英語の言説への第一歩となります.なお,これらの論文の掲載にあたっては,加藤小百合氏の翻訳の支援があって実現したものです.加藤氏には心からの感謝の意を表します.

[3.3] この輝かしい未来のRPGの日本およびその他の国からの寄稿を期待しています.教育環境でTRPGまたはLARPを活用する予定がある場合は,プロジェクトについて「事例報告」としての寄稿を検討してください.RPGに関して豊かな知見をもたらす文献に出会ったら,それらをレビューして,TRPGとLARPの議論を「書評」の形でさらに進めてみませんか? 最も歓迎されるのは,「イマージョン (immersion)」や「ブリード (bleed)」などの重要なアイデアを探究する理論論文と,プレイヤーがゲーム要素とやり取りする特定の方法,または長年にわたる生産の変化に関するオリジナルな研究です.査読担当者になりたい場合はお知らせください. 私たちは寄稿者や読者と一緒にRPGの分野を探索することを楽しみにしています.難しい話は抜きにして,ウサギを追いかけて,TRPGとLARPの不思議の国に向かいましょう.

  1. 著者が両方の言語で記事を提供する場合にのみ,日本語と英語での両方で掲載されます. 投稿の前に両方の言語での寄稿を考えている場合は,編集者に連絡してください.

  2. 両方の言語で公開された記事には,使用されている言語を示すページ番号があります.たとえば,15j-21jは,これが日本語版であることを意味します. 15e-21eは,同じ記事の英語版を表します.

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