Kinoshita Go, and Tanji Takayuki. 2024. “Hōkago-tō deisābisu ni okeru TRPG no katsuyō kanōsei: Shokuin no intabyū chōsa ni yoru kentō [Potential Use of TRPGs in After-School Daycare Services: An Examination Based on Staff Interview Surveys]. Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies, 5: 21j-27j.
引用方法:木下 豪・丹治 敬之. 2024.「放課後等デイサービスにおけるTRPGの活用可能性:職員のインタビュー調査による検討」『RPG学研究』5号: 21j-27j.
DOI: 10.14989/jarps_5_21j[0.1] 現在の日本では,発達障害のある子どもが多く通う福祉サービスの場として,「放課後等デイサービス」(以下,放デイ)がある.障害のある子どもとその保護者のニーズが増加している放デイに求められる基本的な支援の在り方に対して,TRPGは有効な支援ツールとなる可能性がある.そこで本研究では,TRPG活動を継続的に提供する放デイに勤める,保育士・児童指導員6名を対象に,TRPG を通して子どもが学べることについてブレインストーミングを行い,KJ法を用いて語りを整理した.その結果,他者とのコミュニケーションに関するグループ・キーフレーズが多く抽出され,TRPGがコミュニケーション支援ツールとして有用であると認識している可能性が示唆された.加えて,放デイはTRPGが取り組みやすい場所であるという語りも抽出された.以上のように,放デイにおけるTRPGの利用可能性が示唆されたことから,TRPGを用いた実践活動の今後の発展が期待される.
[0.2] キーワード:TRPG,発達障害,コミュニケーション支援,放課後等デイサービス
[0.3] In contemporary Japan, many children with developmental disabilities attend after-school daycare services (referred to as “Afterschool Day Services,” or ADS). As the needs of these children and their parents continue to grow, there is potential for table-talk role-playing games (TRPGs) to serve as an effective support tool in such settings. This study conducted a brainstorming session with six staff members (including childcare workers and children’s instructors) employed at an ADS center that consistently offers TRPG activities. Using the KJ method (affinity diagramming), the participants’ narratives were analyzed and organized. The findings revealed a prominent focus on communication skills, with numerous key phrases relating to interaction with others being identified. This suggests that TRPGs could be recognized as valuable tools for supporting communication. Additionally, the participants noted that ADS centers are well-suited environments for implementing TRPG activities. These results indicate the potential for utilizing TRPGs in ADS settings, highlighting the need for further development of TRPG-based practices in the future.
[0.4] Keywords: TRPG, developmental disabilities,communication support tool, after-school daycare service centers
[1.1] 2012年の児童福祉法改正によって新たに位置づけられた児童福祉施設「放課後等デイサービス」(放デイ)には,障害のある多くの子どもが通っており,子ども達にとっての居場所の役割や療育の場としての役割を担っている.例えば,自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などをはじめとする,発達障害のある子どもの余暇の過ごし方や社会性に関する困難に対して,余暇活動支援やコミュニケーション支援を展開する放デイ事業所も少なくない.放デイによるサービス提供が開始されてから間もなくは,支援内容が事業所によって多種多様であり,支援の質についても事業所ごとに大きな隔たりがあるとの指摘がなされ,放デイにおける支援の質の担保が議論されることになった.このような背景から,サービス実施に当たって必要となる以下のような基本的事項が,「放課後等デイサービスガイドライン」(厚生労働省 2015) によって示された.
[1.2] 放課後等デイサービスでは,子どもが他者との信頼関係の形成を経験できることが必要であり,この経験を起点として,友達とともに過ごすことの心地よさや楽しさを味わうことで,人と関わることへの関心が育ち,コミュニケーションをとることの楽しさを感じることができるように支援する.また,友達と関わることにより,葛藤を調整する力や,主張する力,折り合いをつける力が育つことを期待して支援する(厚生労働省 2015).
[1.3] 以上のガイドラインの作成もあり,現在の放デイにおいては,社会性やコミュニケーションに関する支援実施率が高い現状にある (松下 2023).しかし,具体的な支援内容は事業所によって様々であり,日々,個別のニーズに応じた支援方法の模索が繰り返されている現状がある.放デイの勤務経験者を対象としたインタビュー調査からは,職員の抱える主な困難の一つとして,職員自身の支援力の低さが挙げられている (板川 2018).このことから,子どもの社会性やコミュニケーション能力の育成を支援できるツールの充実を願う放デイ職員は少なくないだろう.
[1.4] ところで,発達障害のある子どもを対象としたコミュニケーション支援ツールのひとつに,テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(Table-Talk Role Playing Game :TRPG)がある.TRPGは,参加者全員がテーブルを囲み,参加者同士の会話によって架空の物語を展開する遊びであり,一般的には,余暇活動として世界中で取り組まれている卓上ゲームである.近年,TRPGは教育活用の側面で注目を集めており,コミュニケーション能力育成の観点から考察した研究データが蓄積されつつある.例えば三池 (2014) は,TRPG で日常的に遊んでいる成人4 名を対象にブレインストーミングを実施し,「TRPG で何が学べるか?」などの議題からTRPG の教育活用の可能性を考察した.その結果,相手との対人関係に配慮したコミュニケーション能力や,面白さを味わえる議論を展開する能力の育成において期待できると論じている.さらに,ASDやADHDなどの発達障害のある子どもを対象にした実践研究もいくつか報告されている.加藤ら (2012) は,TRPG活動を継続する前後で,ASDのある子ども同士による自発的なコミュニケーション行動が増加したことを報告している.木下・丹治 (木下・丹治 2022) は,TRPG活動を継続する前後で,ASDあるいはADHDのある子ども同士による自発的なコミュニケーションの活性化に有効であることを報告している.これらは放デイにおける実践報告ではないが,ASDやADHDのある子どもが多く利用しており,コミュニケーション支援の充実が求められている放デイにおいても,TRPG活動が有効な支援ツールとなる可能性がある.
[1.5] 上述の研究の多くは,大学などの研究機関や医療機関を主なフィールドとしており,放デイにおける実践事例はまだ十分に蓄積されていない現状にある.しかし,放デイにおいて実際にTRPGがどのように扱われ,どのような支援ツールとして認識されているか整理することは,今後の放デイにおけるTRPGの利用可能性を検討する上で重要である.
[1.6] そこで本研究では,TRPG 活動を支援の一環として継続的に実施している放デイ職員を対象に,インタビュー調査を実施することで,放デイにおけるTRPGの活用可能性を整理し,TRPGのもつコミュニケーション支援ツールとしての有効性を検証することを目的とする.
[2.1] 参加者:放課後等デイサービスA事業所(放デイA)において,複数回TRPG 活動に参加した経験のある職員5名(うち保育士3名,児童指導員2名)と,TRPG 活動には参加したことがないものの活動の様子を知っており,趣旨や内容を理解している職員(保育士1 名),計6 名であった.
[2.2] 放デイAについて:放デイAでは,ASDあるいはADHDのある子どもを対象とした学習支援やコミュニケーション支援を主軸とする保育枠を,平日の夜間に週2日設けており,サービス利用者(小学校高学年から中学生5名,以下,利用児)はそのどちらか1日に毎週あるいは隔週で定期的に利用していた.TRPG活動が毎回約30分から45分,コミュニケーション支援を主な目的としてスケジュールに組み込まれていた.保育枠の主指導者を担う職員がTRPG活動のゲームマスターを担当し,利用児は活動に任意で参加できるようになっていた.本研究実施時,継続的なTRPG活動が約5か月経過しており,その間,当該保育枠には毎回1~3名の利用児が来所しており,利用児は,計24回実施されたTRPG活動の全ての回に参加した.なお,TRPG活動には,『いただきダンジョンRPG』(加藤・保田 2014) を使用した.
[2.3] 実施方法:三池 (2014) を参考に,ブレインストーミングを実施した.ブレインストーミングは,子どもが来所していない時間帯に放デイAの一室を用いて,KJ法 (川喜田 1997) の方法をもとに,以下の手順に従っておこなわれた.
[2.4] ①議題を共有する:まず初めに第一筆者から参加者に対して,「TRPG を通して子どもが何を学ぶことができるか.」という議題が示された.参加者には,事前に第一筆者から,TRPGに関するインタビュー調査を実施する旨を説明されていたが,ブレインストーミング実施前に参加者同士で話題に挙がることを避けるために,議題はこの手順ではじめて示された.
[2.5] ②キーフレーズを列挙する:参加者全員で,発想されたワードやフレーズ(キーフレーズ)を列挙し,附箋に記した.この間参加者同士で相談したり互いのキーフレーズを見たりしないよう,第一筆者から参加者に伝えられた.所要時間は約5分であった.
[2.6] ③参加者全員でキーフレーズをグルーピングする:それぞれの参加者によってキーフレーズが書かれた附箋を一枚の模造紙の上に並べることで,参加者同士によってやりとりがなされ,附箋が配置されていった.所要時間は約10分であった.
[2.7] ④グループの表札づくりおよび自由討論を行う:第一筆者によって,グルーピングされたキーフレーズについて何が共通しているか参加者に質問され,参加者が自由に発言することで,グループの表札が作られていった.その後,第一筆者によって,それぞれのグループについて考えられたことがあるか参加者に質問され,いくつかのグループを議題に参加者が自由に発言する討論がなされた.所要時間は約20分であった.以上の手順をもとに,第一筆者によって,グループ同士の関係記号が模造紙上に加筆され,各グループや下位グループについての自由討論で得られた語りが筆記された.
[2.8] 倫理的配慮:本研究は,放デイAの児童発達支援管理責任者と研究参加者に対して,事前に研究の目的や方法等の説明を行い,同意が得られた上で実施された.
[3.1] 「コミュニケーション」,「協調性」,「決断力」,「社会性」,「レジリエンス」,「読み書き計算の能力」,「想像力」という7つのグループ,さらにいずれのグループにも配置されない【続けていくことで強くなること】という1つのキーフレーズが抽出された.グループ同士の連関を表すために,模式的な図解を図1に載せた.要約は以下の通りである.
[3.2] グループ「コミュニケーション」:当グループには,下位グループとして「提案する力」,「聞く力」が配置された.このうち「提案する力」には【人に意見を伝える】【提案を受け入れてもらう経験】という2つのキーフレーズが,「聞く力」には【相手の言い分を受け入れる】【人の話を聞く】という2つのキーフレーズがそれぞれ配置された.また,当グループについての自由討論からは「提案する力」に関連して『提案しないと面白みが深まっていかない.』『道徳だけでない側面があって「貸して」に「いいよ」だけではない.断られることもある.』という語りが得られた.
[3.3] グループ「協調性」:当グループには,【助け合い】【人と協力して成功する経験】【調整する力】という3つのキーフレーズが配置された.また,当グループについての自由討論からは『楽しく遊ぶためには協力が必要.』『暴走すると他人にも迷惑が掛かる.』『協力して何かできるようになるまでに発達段階がある.』という語りが得られた.
[3.4] グループ「決断力」:当グループには,【自分がしたいことを決める力】【未知のことに取り組んでいくという意欲】という2つのキーフレーズが配置された.当グループについての自由討論からは『自分で道を作る必要があるから,不安な子は不安.』『想像しなきゃいけないから,そのための知識もいる.』『知識はアニメからも得られそう.』『最初はインターンでもいいかも.』という語りが得られた.
[3.5] グループ「社会性」:当グループには,下位グループとして「状況を把握する」が配置された.その中には【状況を見る力】【空気を読む力】【全体を見通す力】【人の観察力】という4つのキーフレーズが配置された.また,当グループについての自由討論からは「社会性」に関連して『もう1個の人生を楽しむ.』『アバターを作って楽しむ仮想現実のような世界.』『こういう世界があって,息抜きができる.』『ここでは言いたいことが言える,という安心感.』『ここでやったことが精神的な安定につながる.』『成果に繋げなきゃいけないという思いが支援には強いが,その思いとは切り離されている.結果そうなっても,それを求めてやるものではない.』『学校では学習指導要領があって,評価があって….放デイではやりやすい.』という語りが得られた.
[3.6] グループ「レジリエンス」:当グループには,【失敗することもあるということ】【臨機応変】という2つのキーフレーズが配置された.また,当グループについての自由討論からは『サイコロは,否定ではなく運なので,ストレスが少ない.』という語りが得られた.
[3.7] グループ「読み書き計算の能力」:当グループには,【基礎的な読み書き】【計算する力】【起承転結】【考えて書く】という4つのキーフレーズが配置された.
[3.8] グループ「想像力」:当グループには,【イマジネーション】【想像力】という2つのキーフレーズが配置された.
[3.9] グループ,キーフレーズ間の連関:グループ間,あるいはグループ内で連関があると考えられたものについて,図1において記号を附して模式的に表現している.例えば,グループ「コミュニケーション」内の下位グループ「提案する力」と「聞く力」は,会話において発信する側の行動と受信する側の行動をそれぞれ意味しており,双方が反対のことを表しているといえるが,いずれも他者との会話のために必要な力であることから,キーフレーズ【会話力】に含めることができると考えられた.また,グループ間連関の例を挙げると,例えばグループ「協調性」のキーフレーズ【人と協力して成功する経験】とグループ「決断力」のキーフレーズ【未知のことに取り組んでいく意欲】は,協力関係の成功経験が,新しい挑戦への意欲を後押しするとともに,新しい挑戦がさらなる成功経験へとつながることが期待されるため,相互関係にあるものとして整理した.さらに,グループ「決断力」においては,『想像しなきゃいけないから,そのための知識もいる.』という語りが得られたことから,グループ「想像力」からの因果関係が考察された.
[4.1] ブレインストーミングの結果,他者とのコミュニケーションや社会性に関係するグループが複数抽出され,その内容も多岐にわたった.はじめに,放デイAの職員による語りから,TRPG活動がもつ特長について考察する.
[4.2] グループ「社会性」に関連する語りとして,『学校では学習指導要領があって,評価があって….放デイではやりやすい.』という語りが得られた.実際のところ,学校におけるTRPG活用事例は極めて少ないことが指摘されている.その理由として,実施時間の制限や位置づけの難しさが考えられる.まず,実施時間について大羽・大井 (2022),一般的なTRPG活動では1セッションにつき数時間から1日を要すため,教育利用にあたっては現場の実態に合わせて最適化する必要があることを指摘している.また,教育課程上の位置づけの難しさについても指摘されており,例えば国語科 (浪崎 2006) やクラブ活動 (ほくろん 2012) を対象とした報告に留まる現状である.一方で保育時間の長い事業所や緩やかな時間設定をもつ放デイ事業所では,TRPG 活動に十分な実施時間を確保しやすい.また,教育課程上の位置づけの難しさについても,放デイでは居場所としての役割や余暇支援の充実が求められており,TRPG 活動で期待されるコミュニケーション支援のみならず,余暇支援の観点からもその成果を評価しやすいため,支援の位置づけを考えやすいともいえるだろう.
[4.3] さらに,グループ「社会性」に関連して,『もう1個の人生を楽しむ.』『アバターを作って楽しむ仮想現実のような世界.』『こういう世界があって,息抜きができる.』『ここでは言いたいことが言える,という安心感.』という語りが得られた. TRPG活動において子ども達が操作するプレイヤーキャラクター(PC)は,まさに子ども達にとって「もう1個の人生」であるとも捉えられる.実際に,Krieger (2021) は,PCはゲーム上の「見せかけ」のキャラクターであるため,セッション中にリーダーになる練習をしたり,攻撃性を安全に発散させたり,自己主張をしたりするという日常ではなかなか実践できないスキルを試したりしやすいという点に注目している.TRPGは展開が予測困難であり,ゲームを進めるにあたって仲間との創造的な問題解決を図る必要があるが,積極的に社会的なアプローチを試みることができるこうした特徴によって,できることや得意なことが増え,子ども達の自己肯定感を高められると記している.心理的安定と社会性の切っても切れない関係が,放デイAの職員に実感されていたのではないかと考えられる.
[4.4] グループ「コミュニケーション」では, 下位グループとして「提案する力」「聞く力」が整理され,それら2グループが【会話力】というキーフレーズにまとめられている.放デイAにおいては,TRPG活動を通して子どもに「提案する」や「聞く」機会が生まれていることが読み取れる.実際に,三池 (2014) は,TRPG活動によって,ディベートのように自分の主張を論理的に通すだけではなく,相手との対人関係にも配慮したコミュニケーション能力の育成,あるいは安易に自らの主張を取り下げるのではなく,議論を展開する能力の育成も期待できると報告している.さらに,自由討論において,『道徳だけでない側面があって「貸して」に「いいよ」だけではない.断られることもある.』という語りが得られたことから, TRPG活動を通して子ども同士のやりとりが生まれており,それが子どもに学びをもたらすものであると実感されていると考えられる.
[4.5] グループ「協調性」では,『楽しく遊ぶためには協力が必要.』『暴走すると他人にも迷惑が掛かる.』という語りが得られた.実際に,加藤ら (2012) や,木下・丹治 (2022) では,TRPG活動に参加したASD児やADHD児間でコミュニケーションの活性化がみられた要因として,プレイヤー同士で協力して展開するゲームである点を挙げている.これらの語りから,参加者が経験したTRPG活動では『協力』や『暴走』が起きており,『協力』したときの方が『楽しく遊ぶ』ことができると感じていたことが読み取れる.『協力して何かできるようになるまでに発達段階がある.』という語りからは,『暴走』も一つの通過点であると考え,『協力』することの大切さを,TRPG活動を通して子ども達が学んでいくであろうという,子ども達の成長への期待が込められているとも捉えられる.
[4.6] コミュニケーションや社会性に関するグループのほか,「レジリエンス」,「読み書き計算の能力」,「想像力」といった,多様なグループが抽出された.特に「読み書き計算の能力」には複数のキーフレーズが抽出され,子どもへの学びの成果が複数の職員に実感されている可能性が示された.実際に,ペンと紙を使ってキャラクターの情報を整理するゲーム特徴上,読み書きや計算を実践する機会は必然的に生じる.理想的な冒険をしたり思い描いた主人公になりきるという,TRPG活動がもたらす高揚感が,読み書きや計算が苦手な子どもにとってもゲーム参加に伴う読み書き計算をやってみようと思える理由になり得るのかもしれない.これらのことから,放デイAにおいて,コミュニケーション支援ツールとして利用されてきたTRPGが,職員にとって多様な特長を感じさせていたことが明らかとなった.
[4.7] 最後に,ブレインストーミングの結果およびその考察に基づいて,放デイにおけるTRPGの活用可能性について検討する.
[4.8] 本研究におけるブレインストーミングでは,コミュニケーション支援に関わる事柄や余暇活動支援に関わる事柄などに限定せず,議題を広く「TRPGを通して子どもが何を学ぶことができるか.」と定めた.その結果,コミュニケーションや社会性の学びの機会,余暇活動に関するもののみならず,多種多様なグループおよびキーフレーズが抽出された.このことから,TRPGは,放デイ職員に対して様々な評価の視点を与えられる可能性が示唆される.多様な実態にある子ども達が一つの集団となり,TRPG活動を実施した際にも,子ども一人一人に対して実態に応じた多様な観察の視点を検討することができる.さらに放デイはTRPG活動を実施しやすい環境にあるという語りがあったことから,取り組みやすい有効な支援方法の一つになり得るのではないか考えられた.
[5.1] 本研究は,TRPGをすでに実践している放デイAにおける支援者を対象に実施された. 一方で,TRPGをまだ導入・実践していない放デイ事業所においては,人材確保の問題について検討の余地がある.TRPGのゲームマスターを担うためには一定のスキルが必要であり,そのハードルの高さが指導者不足を招いていることから,今後の教育利用の課題点とされている (大羽・大井 2022).今後様々な事業所での活用を目指すにあたって議論していくべき課題であろう.さらに今後は,TRPG活動に参加する子どもたち,さらに保護者など,幅広い対象や立場からの検討を重ね,TRPGの活用可能性を考察していくことが求められる.例えば,本研究においては,参加者間のTRPG経験にある程度の開きがみられた.今後,研究参加者のTRPG経験に着目した検討も可能であると考えられる.TRPGのもつコミュニケーション支援ツールとしての特長を子どもの実態と照らし合わせ,計画や評価を改善していくことで,放デイにおけるより質の高い支援へと繋げ,成功事例を蓄積していくことが期待される.
TRPG活動の実践及び一連の研究に当たり,放デイAの職員の皆様には多くのご協力をいただきました.深く感謝申し上げます.
本論文は,2023年8月25日(金)~8月27日(日)に行われた日本特殊教育学会 第61回大会でのポスター発表「放課後等デイサービス職員が感じるテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)の特長:ブレインストーミングを用いたTRPGの社会的妥当性の検討」を加筆・修正したものである.