Third Issue | 3号

Editorial | 第3号発刊の趣旨:
The Master with a Thousand Faces — Game Mastering, Organizing, Plotting, and Running Analog Role-Playing Games |
千の顔を持つゲームマスター — アナログロールプレイングゲームのゲームマスタリング,主催,作成や運営について

JARPS Editors | RPG学研究編集委員会

How to Cite:

JARPS Editors. 2022. "Editorial: The Master with a Thousand Faces — Game Mastering, Organizing, Plotting, and Running Analog Role-Playing Games." Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies, 3: 1e-2e.

引用方法:

RPG学研究編集委員会. 2022. 「第3号発刊の趣旨:千の顔を持つゲームマスター — アナログロールプレイングゲームのゲームマスタリング,主催,作成や運営について」『RPG学研究』3号: 1j-2j.

DOI: 10.14989/jarps_3_01j

1. 広く深いゲームマスターの世界

[1.1] TRPGやLARPの「ゲームマスター(GM)」という存在は,他のゲームにあまりいない独特な役割である.GMは時と状況に応じて,ストーリーテラー,ルールの裁定者,プロット作成者,監督,ファシリテーター,世界の構築者,物語の登場人物(ノンプレイヤーキャラクター:NPC),エンターテイナー,インプロの専門家,世話役,グループマネージャー,イベント主催者…などなど,数えきれないほどの役割を担っており,まさに「千の顔」を持つ存在といえる.

[1.2] TRPGでは,通常は一人のGMがこの役割のすべてを担うことになるであろう.またLARPでは複数の人間がGMやNPCを分担して担当することになると思う.特に大規模なLARPコンベンションであれば,参加者は文字通り「千の顔(GM)」に出会うことになるかもしれない.なお,ゲームマスターがチームとして動き,そのチームをマネジメントするのもGMの役割となる.また,LARPでは,プロット進行担当のGMと戦闘シーン担当のGMがプレイヤーと直接コンタクトを取り,プロット作成者やロジスティックマネージャーとしてのGMは舞台の背後に控えているが,同様に重要な存在といえるであろう.

[1.3] 多くのGM(ゲームシステムによってダンジョンマスター,キーパーとも呼ばれるが)やTRPG/LARPの主催者は,趣味でセッションを準備したり主催したりしているが,日本のTRPGカフェのGMやNPO法人の教育LARPのファシリテーターなど,仕事としてのGMに出会う機会も最近は増えてきている.企業などのワークショップのファシリテーターがビジネスになっているように,ビジネスとしてのTRPGやLARPのGMの存在のあり方も今後は我々の中で語られていくことになるかもしれない.

[1.4] 一方で,「千の顔」どころか「顔」のない,すなわちGMの存在を完全に排除しているTRPGやLARPもある(今回の特集でもそのテーマに触れた論文が掲載されている).

[1.5] GMがさまざまな場面でさまざまな役割をどう果たすか(もしくは,さまざまなGMが与えられたさまざまな役割をどう果たすか),あるいは,GMのいないTRPGやLARPの場合,GMの役割をルールや他のプレイヤーがどう担うか,その在り様によって,TRPGやLARPの面白さはもちろん物語が持つメッセージ性やプレイヤーに与える影響も大きく変わっていく.本特集では,そういったTRPG/LARPを企画・実施する中で非常に重要な存在であるGMにスポットライトを当て,学術的・実践的な検討を行うこととした.

2. 本号の掲載内容について

[2.1] 今回の「RPG学研究」では,6本の特集論文と1本の投稿論文を掲載している.

[2.2] Steven Dashiell(スティヴェン ダシエル,アメリカン大学)には,「DM Habitus : The Social Dispositions of Game Mastering in Dungeons & Dragons(DMハビトゥス:『ダンジョンズ&ドラゴンズ』におけるゲームマスターの社会的処世術)」という理論論文を寄稿いただいた.本稿ではゲームマスター,特に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のダンジョンマスター(DM)の位置づけについて,ピエール・ブルデューのハビトゥス理論を用いて,実践論の観点から,DMハビトゥスなる概念(ダンジョンマスターの役割を担う個人がその役割を強固にするために制定する,ゲーム体験から生じる「深く染み付いた習慣,技能,身体的気質」の概念)の生成を試みるものである.

[2.3] 原田裕介・加藤浩平・藤野博(東京学芸大学)は,事例報告「自閉スペクトラム症児のTRPG活動における会話の促進とゲームマスターの役割」で,GMの役割を探っている.これまでTRPGを通じたASD児の会話促進が報告されてきたが,本稿ではその会話促進におけるGMの役割とGMの有効な介入方法について,TRPGセッションの会話分析の手法などを用いて検討している.

[2.4] 藤林啓一郎(独立研究者)は,「ゲームマスターの力量マップープロフェッショナルの要件」という第2の事例報告を提供している.本稿では参与観察や自己エスノグラフィーというアプローチにしたがい、著者の独自アイデアと経験に基づいてGMの力量についてマップ形式で提示している.

[2.5] William J. White(ウィリアム J. ホワイト,ペン・ステート・アルテューナ大学), Nicolas LaLone(ニコラス ラローン,ネブラスカ州立オマハ大学), Nicholas J. Mizer(ニコラス J. マイザー,レンセラー工科大学)は,ゲームマスター(GM)が時系列に分布する様々なTRPGファンの言説サイトにおいてどのように描かれているか検証している.「At the Head of the Table: The TRPG GM as Dramatistic Agent(テーブルの上座:劇作論的なアクターとしてのTRPGゲームマスター)」という研究論文では,ケネス・バークの劇作論的アプローチを用いて,言説におけるGMの描写を調べ,「ゲームマスターの修辞学」を作成している.

[2.6] 美園勉(Ben Bisogno,京都市立芸術大学)には「No Gods, No Masters: An Overview of Unfacilitated “GMless” Design Frameworks(神々も支配者もいない:非促進型(GMなし)デザイン枠組みの概要)」というエッセイを寄稿いただいた.本稿では,GMの役割に関連する従来の責任を明らかにし,LARPとTRPGの両方において,公表されている「GMなし」のデザインが,それらを再構築・再組み込みして,より平等で,多くの人にとって魅力的な遊びを可能にしていることを論じている.

[2.7] 竹之内美穂(独立研究者)の「オンライン上での『ふしぎもののけRPG ゆうやけこやけ』の短時間ボイスセッションの需要について」というエッセイでは,新型コロナウィルス感染症の流行によって,1 オンラインセッションの普及が進む中で,短時間ボイスセッションに焦点を当て,その需要やニーズについて質問紙形式で調査している.

[2.8] 最後に,特集外の投稿論文として,五十嵐梨々花(独立研究者)と青山征彦(成城大学)には「TRPGでのロールプレイにおいてプレイヤーキャラクターを創作することの意味: キャラクターのジェンダーと歴史についての設定を中心に」という研究論文を寄稿いただいた.本稿ではTRPGのキャラクターを創作について,ジェンダーという切り口から,インタビュー調査とフィールド観察という2つの方法で探索的に検討している.

[2.9] 今回の特集はGMという「千の顔」を持つ役割を(そのごく一部ではあるが),さまざまな領域の研究者・実践者から多面的に論じてもらった.本特集をきっかけに,分野を越えて,さらに多くの意見交換・交流が進んでいくこと,そして今回掲載された論文・エッセイが,TRPGやLARPをより楽しいものになるための貢献につながることを編者として願っている.

[2.10] 今後の『RPG学研究』では,非デジタル(アナログ)ロールプレイングゲームの研究と実践に関する他の領域・テーマについて取り上げていくことになるが,本号のテーマであるプレイの主催とゲームマスタリングは,RPGにおける重要な面であることに変わりはないため,引き続き投稿を歓迎している.また,教育的または治療的・支援的な環境設定でTRPGやLARPの実施を計画している場合,ぜひそのプロジェクトについて「事例報告(ケースレポート)」の形で投稿して欲しい.そしてもし,あなたがTRPGやLARPに関して豊かな知見をもたらす文献に出会ったときは,それらの内容について「書評(ブックレビュー)」の形にまとめて投稿いただけないだろうか? なお,特に歓迎するテーマとして,「イマージョン(immersion,没入感)」や「ブリード(bleed)」といった重要なアイデアについて考察された理論論文のほか,プレイヤーがゲーム要素と関わる特有の方法や,特定の様式がフィールドを再形成する方法,オーガナイザーが透明性とアクセシビリティをどのように扱うかなどについてのオリジナルの研究論文である(同時に本誌に査読者としてご協力をいただける方はお知らせください.)2⁠ 私たちは,寄稿者や読者と一緒にRPGの世界を探索することを楽しみにしている.本号で,ゲームマスタリングについて取り上げ,TRPGやLARPにおける可能性についての新しい概念を明らかにすることで,それらの技術や手法が読者の皆様のプレイ実践をより豊かなものになれば幸いである.

[2.11] さらに,本誌では,2024年度の次回特集号のゲストエディターを募集している.2023年度のゲスト特集号のテーマは,『きみならどうする?』というゲームブックをはじめ,インタラクティヴなメディアとフィクションに焦点を置く予定である.

[2.12] 特集号,ゲスト号ともに,各号では,教育への応用,プレイヤーとキャラクターの関係,プレイ中の身体のことなど,現在のロールプレイングゲーム関連の研究と実践のある側面を取り上げる.ゲストエディターの候補者は,通常の投稿システムを使って,候補となる号のアイデアを提出いただければと思う.

[2.13] なお,今後,『RPG学研究』はいわゆる「回報投稿」も受け付けることにした.特集号のトピックと一致しない場合でも募集要項で示した期間外でも投稿を歓迎し,そのような投稿は後の号に含めるというプロセスである.

[2.14] アナログのロールプレイングゲームについて,多くの新しい議論や知見が得られることを楽しみにしている.

注記

  1. アナログ RPG の実践に対するコロナ パンデミックの影響については,『RPG学研究』2号「遠隔RPG」も参照してください.↩︎

  2. このWebサイトでのアカウント作成プロセス中に,査読者として登録することを選択できる.また,編集委員に専門分野について連絡することもできる.↩︎