Second Issue | 2号

Editorial | 第2号発刊の趣旨:
RPG at a Distance ― Online and Remote Forms of Analog Role-Playing |
遠隔RPG ― オンラインとリモートのアナログロールプレイング

JARPS Editors | RPG学研究編集委員会

How to Cite:

JARPS Editors. 2021. "Editorial: RPG at a Distance ― Online and Remote Forms of Analog Role-Playing." Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies, 2: 1e-2e.

引用方法:

RPG学研究編集委員会. 2021. 「第2号発刊の趣旨:遠隔RPG ― オンラインとリモートのアナログロールプレイング」『RPG学研究』2号: 1j-2j.

DOI: 10.14989/jarps_2_01e

1. 遠くても近い

[1.1] この度,ロールプレイングゲーム(RPG)のさまざまな研究と実践についてグローバルな意見交換を続けながらの,素晴らしい発展を期待し,『RPG学研究』(Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies: JARPS)の2021年号を読者の皆様にお届けしたいと思う.昨年度の感情的・心理的安全性のテーマの後で,今回の第2号は,新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大によって提起された様々な課題やアナログロールプレイング(TRPG,LARP)の実践のための新たな可能性についての内容である.

[1.2] 新型コロナウイルスの感染拡大による2020年の出来事は社会生活のあらゆる面に影響を与え,特にローカルな共有空間での人間関係・相互作用に依存する活動は、社会的な距離(ソーシャルディスタンス)やコミュニティが閉鎖・自粛された状況下でその影響に苦しめられた.世界中のTRPGやLARPの団体やプレイヤーは,対面でのロールプレイ活動の中断や緊急キャンセルに見舞われ,個々のプレイヤーの社会的幸福や小規模なRPGビジネスの状況にも影響を与えた.一見するだけでも,いくつかの分野で深刻な状況下にある.しかしながら,地域での対面の交流が制限されるいっぽうで,アナログフォーマットをデジタルでのプレイの中で応用して実施できる可能性も示されてきた.この1年の間には,事前に計画されたRPGイベントのオフラインからオンライン領域への移行だけでなく,古典的な手紙・メールLARP,Play by Mail(PbM)やPlay by Post(PbP),あるいはオンラインコミュニティプラットフォームやソーシャルメディアツールの利用など,古い形式の遠隔RPGへの関心も新たに高まっていることが散見された.そして,LAOG(Live-Action Online Game)のための革新的な形態と実験的なデザインも作成され,試みられた.テキストでのやり取りからビデオ通話まで,また,子供の世話をしながら家庭でどのように遊ぶかという試みから,国際的な没入型オンラインセッションまで,ハイブリッドなプレイスタイルも生まれた.

[1.3] 本号では,リモートプレイ(オンラインセッションによるTRPGやLARPのプレイ)の実用性を高めるためにアナログゲームのデザインをシフトし,革新するための知識,経験,ベストプラクティスのアプローチを取り上げる論文を募集した.

2. 号の掲載内容ついて

[2.1] 本号への最初の寄稿論文は,オンラインLARPにおける没入感と具現化についての理論的な論文で,著者であるHazel Dixon(ヘイゼル ディクソン,ニューカッスル大学)とErin Marsh(エリン マーシュ,独立研究者)のデザイン経験に徹底的に基づいたものとなっている.この論文では,オンラインLARPやLive-Action Online Game (LAOG)の最新動向を紹介しながら,キャラクターが同じ場所にいながらプレイヤーが遠隔操作する,オンラインの没入型ゲームを作るための課題と可能性を探っている.著者は,メディアとアクティビティの間に不協和音がある場合,ゲームはどのようにして没入感と体現性を保つことができるのかを問いかけている.本稿では,デザイナーが物理的およびデジタル的なアーティファクトを使用し,環境を増強し,それらの空間と相互作用するための創造的な方法を生み出すことによって,意味のある魅力的なゲームを作成することができることを示している.

[2.2] 次に,実践に基づいた理論の後,寺島 哲平(常磐大学),石田 喜美(横浜国立大学),名城 邦孝(広島女学院大学),関 敦央(常磐大学)と宮崎 雅之(常磐大学)の実践報告を紹介する.今までのゲーム型の図書館ガイダンスの知見を活かし,オンライン図書館ガイダンス「Libardy Form」(リバードリィ・フォーム)を制作することを試み,それが図書館利用学習へもたらす影響を知るための探索的な調査を実施した.大学図書館を利用した経験の少ない1年生の理解度向上に寄与する可能性があることが示唆された.

[2.3] 山本真妃沙(独立研究者)の実践報告では、大人対象の平和教育の一部にエンターテイメントを利用する有用性を探求するために,筆者は『クトゥルフ神話TRPG』のシナリオを本研究のために書き下ろした.このレポートでは,オンラインプレイのさまざまな形式について説明し,セッションはプレイヤーにキャラクターがどのように社会問題を捉えるかを考えさせることで,ひいてはプレイヤー自身が社会問題についての意識を高めるきっかけとなる可能性を述べている.

[2.4] 実践報告に続いて,Adrian Hermann(エイドリアン ヘルマン,ボン大学)とGerrit Reininghaus(ゲリット ライニクハウス,独立研究者)による,「キャラクターキーパー」に関する詳細な研究論文を紹介する.本論で紹介されるキーパーは,単に紙のキャラクターレコードシートのデジタル版として機能するのではなく,プレイヤー全員がすべてのプレイヤーキャラクターの情報を同時に参照できる共有シートとして機能する.この研究論文では,キャラクターキーパーの特性と実用性について議論がされており,このフォーマットの短い歴史の要素を強調している.

[2.5] そして、今号は2本の「ショートノート」で締めくくられている.Evan Torner(エヴァン トルナー,シンシナティ大学)は,インディーズゲームのコンテストである「ゴールデン・コブラ・チャレンジ」の歴史を紹介の上,誰もがオンラインにアクセスしなければならない状況にどのように対処したかについて,考察を述べている.

[2.6] 最後に,日本のLARP普及団体であるCLOSSは,日本のデザイナーがパンデミックの前と最中に作成した多くのオンラインLARPの概要を紹介している.

[2.7] 今後の「RPG学研究」では,非デジタル(アナログ)ロールプレイングゲームの研究と実践に関する他の領域・テーマについて取り上げていくことになるが,本号のテーマである「遠隔プレイ」は,RPGにおける重要な面であることに変わりはないため,引き続き投稿を歓迎している.また,教育的または治療的な環境設定でTRPGやLARPの実施を計画している場合,ぜひそのプロジェクトについて「事例報告(ケースレポート)」の形で投稿して欲しい.そしてもし,あなたがTRPGやLARPに関して豊かな知見をもたらす文献に出会ったときは,それらの内容について「書評(ブックレビュー)」の形にまとめて投稿いただけないだろうか? なお,特に歓迎するテーマは,特に関係したいテーマとして,「イマージョン(immersion,没入感)」や「ブリード(bleed)」といった重要なアイデアについて考察された理論論文のほか,プレイヤーがゲーム要素と関わる特有の方法や,特定の様式がフィールドを再形成する方法,オーガナイザーが透明性とアクセシビリティをどのように扱うかなどについてのオリジナルの研究論文である(同時に本誌に査読者としてご協力をいただける方はお知らせください.)1⁠ 私たちは,寄稿者や読者と一緒にRPGの世界を探索することを楽しみにしている.本号で,遠隔RPGやオンラインプレイについて取り上げ,TRPGやLARPにおける可能性についての新しい概念を明らかにすることで,それらの技術や手法が読者の皆様のプレイ実践をより豊かなものにすることを願っている.

[2.8] さらに,本誌では,2023年度と2024年度の次回特集号のゲストエディターを募集している.

[2.9] 各号では,教育への応用,プレイヤーとキャラクターの関係,プレイ中の身体のことなど,現在のロールプレイングゲーム関連の研究と実践のある側面を取り上げる.ゲストエディターの候補者は,通常の投稿システムを使って,候補となる号のアイデアを提出してください.

[2.10] アナログのロールプレイング・ゲームについて,多くの新しい議論や知見が得られることを楽しみにしている.

注記

  1. このWebサイトでのアカウント作成プロセス中に,査読者として登録することを選択できる.また,編集委員に専門分野について連絡することもできる.↩︎